入院症例13 超高齢者のせん妄の薬物療法

Key word  過覚醒せん妄 覚醒水準モニター エビリファイ リスペリドン液

90歳代 男性。

60歳で定年退職。65歳頃までは簡単な事務職などをしていた。以後は年金生活。趣味の和紙の箱作りや畑仕事をしており、最近までは認知症症状は目立たなかった。糖尿病、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患あり、在宅酸素療法実施中。要介護1判定。
1ヶ月前肺炎で総合病院に20日間入院。退院後一時的にせん妄が出現したが治療せず落ち着く。しかし受診前夜よりせん妄出現。一晩中家の中を徘徊し不穏状態を呈し、家人が近づくのも拒絶する状態。翌朝かかりつけ医の紹介で当院受診に至る。

初診時
診察室へ車椅子で入室。「先生こらえて下さい」と怯えた表情で訴えられる。全く疎通が取れない。
午前中急性期治療病棟開放病室に入院となる。

治療経過
食事摂取も不十分であり、脱水などの身体因性にせん妄が生じていると考え、入院後は酸素吸入2L及び点滴を開始した。昼食は摂取せず入床。まもなく酸素飽和度97%と改善し夕食は全量摂取。筆談にて疎通が可能となる。
以下の処方を開始した。
エビリファイ (3mg)1錠 夕食後

19時:入眠中。しかし20時には覚醒。
23時:眠れんと訴え、不眠・不穏時指示のリスペリドン液0.5ml服用。
以後睡眠・覚醒を繰り返す。

入院2日目
5時:覚醒し独語あり。他患者の部屋に入ったり椅子を持ち歩き混乱あり。再度リスペリドン液0.5ml服用。
以後も不穏状態続く為、午前9時閉鎖病室に移室する。
その後は穏やかになり昼食は3割程度摂取。午後には自力歩行され、「こんなに歩くのは久しぶりに見た」と家族が話される。
21時:不穏となり「包丁を持って来い。切ってやる」と表情険しく大声を出したり、ドアを叩いたりされる。リスペリドン液0.5ml服用。

入院3日目
1時には入眠。
9時:声掛けに対しても覚醒せず11時にやっと覚醒。以後穏やかではあるが傾眠傾向。エビリファイ3mgを同日は中止とし、不穏時はリスペリドン液0.5mlのみで対応する事を指示した。同日抗精神病薬は使用せず

入院4日目
せん妄なく穏やかに過ごし、食事も多少であるが自力摂取される。(同日抗精神病薬は使用せず)

入院5日目
0時40分:覚醒されデイルーム徘徊。入床を促すと抵抗。足蹴りする。車椅子に移動し、ナースステイション観察とする。以後落ち着き車椅子上でウトウトすごされる。
7時:朝食を全量摂取。
10時:ベッド上でゴゾゴゾし立ち上がろうとされる。車椅子に移動しようもするも抵抗あり表情険しい。
その後も不穏な為、エビリファイ錠 3mg(夕食後)処方再開する。

入院6日目
過鎮静で朝、昼食摂取不能。口腔内乾燥し、Skin turgor (皮膚緊張感) 低下し、脱水状態。
エビリファイ3mgを再び中止とする。(同日抗精神病薬は使用せず)

入院7日目
昨日同様に過鎮静状態持続。以後不穏時リスペリドン液頓服の指示は中止とし、毎日朝・夕の覚醒状態を主治医が判定し、その都度リスペリドン液服用を指示する事とした。
9時:混乱し介入拒否。
15時:点滴中であるもベッド上で座りズボンを脱いでいる。点滴のルートを握り離そうとしない為、上肢固定する。
リスペリドン液0.5ml夕食後服用指示。
以後穏和となりデイルームで過ごす。

入院8日目
0時40分:他室に入りベッドに座っている。
17時:主治医訪室時は傾眠状態であっが、せん妄持続と判断しリスペリドン液0.5ml(夕食後)服用指示。
同日以後せん妄は消失し、リスペリドン液服用の指示は行わなかった。

入院11日目
食事はほぼ全量摂取され、せん妄なく安定した為、点滴・酸素は中止。

入院12日目
書き物に熱中し、食事を摂らない。
過覚醒状態で、せん妄出現のリスク高いと判断し、緩和な抗ドパミン作用のあるスルピリドをせん妄予防の目的で処方した。
処方
スルピリド(50mg) 1錠 夕食後

以後過覚醒状態は消失し穏和となられ、入院19日間で退院に至った。入院期間中抗精神病薬エビリファイ及びリスペリドン液の投与日数は合計5日間であった。

退院後も2週間安定状態である事を確認し、紹介医にスルピリドの継続処方を依頼し、当院での治療は終結とした。

診療のポイント
せん妄は脳を含め身体疾患を基盤とする一過性の意識変容状態であり、興奮を呈する過覚醒せん妄と傾眠を主症状とする低覚醒せん妄がある。本症例の場合超高齢による脳萎縮、慢性閉塞性肺疾患及び脱水などの複合要因により生じた過覚醒性せん妄と考える。
まずせん妄の身体的リスク低減の為、点滴、酸素吸入を行った。超高齢の為、鎮静作用の弱いエビリファイの最少量を選択したが、入院2日目までは同薬単剤ではせん妄のコントロールは不十分で、リスペリドン液頓服3回の追加投与を要した。その後は過鎮静の為、エビリファイを中止。覚醒水準を細かくチェックし、リスペリドン液0.5mlの適時の服用が奏功した。最終的にはスルピリド50mgの継続投与でせん妄の完全消失を見た。
高齢者のせん妄は、抗精神病薬を使用すると最初は効果が乏しくその後急激に過鎮静となる。興奮してからの頓服より、頻回に覚醒水準をモニターし、覚醒水準の推移を予測して興奮直前に先行投薬する等、きめ細かに薬物調整する事がポイントと言えよう。

入院症例13 超高齢者のせん妄の薬物療法 への13件のフィードバック

  1. 加藤 のコメント:

    父と似ている症状です。
    脳血管障害とアルツハイマーの混合型認知症と言われました。
    夜間せん妄に苦労しております。
    ドネペジルでせん妄、過活動が激しくなり、中止して随分立ちます。
    また、睡眠薬も効果なく怒ったり暴力的になったりしたため、睡眠薬も中止しています。
    睡眠薬・ドネペジル使用中より随分穏やかになりましたが、週1~2程度、夜間物を壊したり(本人は何か仕事をしているつもりのようです)大きい音を立てたり、いすでもベッドでも、引き出しでもひっくり返して手に負えない状態です。
    ドネペジルや睡眠薬で副作用が生じたため、向精神薬でも症状の悪化や逆にもうろう状態になったりしないかと不安がありますが、やはり精神科を受診した方がよろしいのでしょうか。

    • 西川 正 のコメント:

      精神科受診され、少量の抗精神病薬で治療されると改善されると思います。私であれば、クエチアピン12.5~25mg 1T夕を処方するでしょう。

  2. むすめ のコメント:

    母は認知症と末期癌になり 在宅介護をしています。毎日 長い時でも1時間半くらいしか寝ず他の時間は寝て起きてを5〜10分おき 酷いときは2分おきに繰り返し その度に寝かしたり起こしたりと介護側も寝られ状況でした。往診の先生からリスペリドン1mgを夜飲ますようにと指示があり飲ませた後に 20時間近く眠り目を覚ましても すでに会話も出来ず せん妄が出る 身体も起きる事も出来なくなりました。医者はその後様子を見に来て半錠で良かったかな と呟きました。もし半錠を飲ませていたら この状態にはならなかったのでは無いかと不信感が増すばかりです。また もう会話が出来る事は無いのでしょうか?
    ご返事 宜しくお願い致します。

    • 西川 正 のコメント:

      回復されると思いますが、認知症の周辺症状(BPSD)にはリスペリドンよりクエチアピン(12.5~~25mg分1夕)の方が有効と思います。

  3. かぁちゃん のコメント:

    突然のコメント失礼します。
    83歳の母を在宅介護しております。
    昨年2月に脳幹出血を起こし入院、徐々に全身状態悪化し、20キロ近く体重減少し、不安を強くなり、せん妄症状も現れ、転院等をし、最終的に急性腎不全を起こして、永久バルーン留置の状態となり、在宅介護介護を決断し、在宅介護を始め半年になります。在宅になってから体重は3キロほど増量しましたが、認知症とは違い、疎通が出来たりできなかったり、夜になると不安な表情をし、睡眠時間はバラバラで、全く安定しない状況です。最近になり食事がなかなか経口摂取できなくなりつつあります。それは拒否が強いためで、いらない、食べない、食べたら悪いよね、などと言いながら繰り返します。本人は、私わからないから、何もできないから、どうしてこあなったの、最初から間違えたね、何かおかしいね、もういいから、等口にする事が多いです。不安を取り除いてあげたいし、ゆっくり睡眠もとらせてあげたいんです。精神科に入院させられた時、目も虚ろになり言葉も言わずの、状態になってしまった事を思うと、どの薬が適切なのか、分かりません…何かアドバイスは無いでしょうか

    • 西川 正 のコメント:

      リスペリドン液(0.5 ml~1 ml)を頓服使用で症状に対応されれば良いと思います。

    • 西川 正 のコメント:

      リスペリドン液(0.5~1 ml)を頓用で使用し症状コントロールされれば良いと思います。

  4. はたの のコメント:

    本年2月にラクナ梗塞で救急搬送、1ヶ月の治療経て3月よりリハビリ病院で拘束ありの入院生活。7月より老人介護ホームで単独居室型看護付き(24時間見守りではない)月2回訪問診療ありの投薬。91歳を迎えた父親の投薬リスペリドン0.5mgの継続の判断についてのご相談です。
    ここ2、3ヶ月傾眠の症状が強くなり、車椅子からのすべり落ちなどが頻回になりました。週一回の面会で、4回に一回ほどは覚醒で会話も30分内で適度にできます。
    インスリン投与型の糖尿病の持病もありますが時に低血糖低血圧の症状が出ています。
    行動には昼夜逆転が見られるそうですが、居室内夜間徘徊や暴言などはない様子です。本人がなんでこんなに眠いのだろう❓ということも。
    現在独立歩行は困難です。万が一転倒するのを恐れたリスペリドン服薬という考え方は妥当なのでしょうか?
    施設の看護師さんからは居室での転倒の可能性を危惧した発言は多いのですがドクターは家族に任せますよ、というところです。
    お考えをお聞かせください。父は90歳になるまで入院歴なく糖尿病コントロールも薬と食事療法とで自分なりに解決できていました。
    よろしくお願いします。

    • 西川 正 のコメント:

      抗精神病薬は認知症の周辺症状(興奮、幻覚妄想、介護抵抗など)に健康保険適応外使用として広く使用されていますが、転倒リスク低減の為に使用される事はまずありません。本ブログ入院症例15は「落ち着きのなさ」に対してクエチアピンを使用した所、覚醒水準が適正化され、その結果として転倒リスクが低減した極めて稀な症例です。通常抗精神病薬は鎮静作用により、転倒リスクを高めると考えられていると思います。

  5. かわぐち のコメント:

    大脳皮質基底核変性症の父を介護しております。暴言暴力がありショートステイで暴れられては困るとリスペリドンを乱用され帰宅後立ち上がれず介護ができない状態で返されます。リスペリドンを使用した後も機嫌が悪く更に追加するようです。家族は困っていますがショートステイ側はもっと効く薬を処方してもらって来いと言われ気持ちが伝わりません。
    リスペリドンの過剰投与でも不穏はでるものでしょうか?
    突然、コメントでの質問申し訳ありません。

    • 西川 正 のコメント:

      抗精神病薬は適切な種類と用量を選択して初めて治療効果が認められると思います。大脳皮質基底核変性症との診断であれば、錐体外路症状躍起作用の少ない、クエチアピンやアリピプラゾールの適正用量が効果的だろうと思います。

  6. 松○美○ のコメント:

    現在、入院中の老母がせん妄状態であるが原因の特定が出来ず、2週間以上が経過して尚も過覚醒の状態が続いています。コロナ過であり、顔を見る事も儘ならず悶々とした日々を過ごしています。まったく見通しが立たず途方に暮れており、藁をもつかむ思いでこちらのサイトにたどり着き、やや希望の光が差し始めました。大変参考になり感謝しております。

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