入院症例2 エビリファイが著効した攻撃的アルツハイマー型認知症

Key word 認知症 周辺症状 エビリファイ スルピリド

80歳代女性

元来気丈な性格。5年前から物忘れが目立ち、同じ事を言うようになる。4年前からは、着る服が分からない。家事が出来なくなり家事は夫がしている。不穏となり一時は内科医にてリスペリドン処方されたが、過鎮静を起こし、以後は服薬なく、3年前からはグループホームに入所。攻撃的で職員を叩いたりする為、2年前からは精神科クリニックでデパケン細粒80mg、リスペリドンなどごく微量の気分安定薬と抗精神病薬が投与されていた。しかし攻撃的言動や介護抵抗が続くため当院受診に至った。

初診時

同伴した娘の腕を握り締め、「帰ろう~」と言い駄々をこねる子供のような状態。長谷川式簡易知能テストを試みるも拒絶。問診中の医師(研修医)に突然手をあげたりする。急性期治療病棟に入院となり、娘の手助けを借りやっと採血ができる状態。口舌ジスキネジアも認めた。このため処方:デパケンシロップ200mg、リボトリール1mg、エビリファイ6mgとした。

治療経過

入院翌日
前夜はぐっすり眠り、すっかり穏和となっており、介護抵抗は全く認めない。食事摂取は3割程度であり、やや過鎮静のため、エビリファイは3mgに減量した。

1週間後
バルプロ酸(デパケン)血中濃度は23μg/mlと治療閾値(50-100μg/ml)に達していないため除去した。以後情動は落ち着き口舌ジスキネジアも消失していたが、食事摂取は5割程度にとどまっていた。

2週間後
娘の面会があり、「落ち着いているが、活気に欠け多少過鎮静と思う」との事であった。そこでエビリファイをスルピリド50mgに変更した。翌日には食欲も8割程度には回復し、笑顔もみられる。急性期病棟での2週間の薬物調整で介護抵抗はすっかり消失して集団生活にも適応できる状態のため、認知症病棟に転棟とした。

診療のポイント

認知症の周辺症状である精神症状には、非定型抗精神病薬である、セロクエル、リスペリドン(特に水溶液)が第一選択薬であるとされているが、エビリファイもこの症例のように著効する場合がある。本症例ではエビリファイ錠3mg(最少量規格)でもなお感情表出の乏しさ、食欲低下が認められたのでスルピリドに変更した。スルピリドは選択的なドパミン阻害薬であるが、低用量(50mg~100mg)ではドパミン自己受容体も遮断しドパミンを放出させる。その結果最適な静穏作用と適度な活動性が維持できたものと思われる。とはいえ最初からスルピリドを処方したのではこれだけ短期間で介護抵抗が消失する事はなかったと思われ、認知症の周辺症状に対するエビリファイの有用性を痛感した症例である。