入院症例25 低Na血症を合併し認知症状が増悪した症状精神病

Key word 尿中Na排出増加 食塩補充療法 せん妄

70歳代男性

20年前、妻が亡くなり以後独居。1カ月前より、ゲートボール仲間から「言動がどこかおかしい」と思われていた。某日「朝から、自分が直前に何をしようとしたか解らなくなった」と訴え、かかりつけ医を受診した。普段と比べ、動作緩慢、表情に乏しく反応が鈍い為、認知機能の低下を疑われ、かかりつけ医より当院に紹介受診となる。

初診時(時間外担当医)
息子同伴にて時間外受診。
血液検査にて、低Na血症(117mmol/l:正常値134~148mmol/l)を示したため、初診医は、Na補正の点滴を行った。

4日後(以後 著者が担当医となる)
息子同伴で受診。
息子より「この4日間一緒に暮らしてみたが、とても一人で暮らせる状態ではない。どうして急にこんな状態になったのか入院して調べて欲しい」と訴えられ。当日急性期病棟閉鎖エリアに入院とした。
血液電解質を再検査したところ、血中Na濃度は117mmol/l(正常値:134~148mmol/l)と、低Na血症が持続しており、認知症と低Na血症の合併により惹起された症状であろうと息子に説明した。

受診時のご本人の応答は迅速で、意識障害は認めなかったが、長谷川式簡易知能スケールでは、7点(満点30点)で、「やや高度に認知症状態」が示唆された。

かかりつけ医では高血圧症などの治療中であったが、低Na血症の起因薬は処方されておらず、抗利尿ホルモン(ADH)値も正常範囲だった。
低Na血症を来す疾患を精査したが、いずれも該当する結果は得られず、原因不明であるが尿中Na排出増加のみが認められた。

治療経過
入院2日目
経口的に食塩3g/日を投与開始した。以後Na濃度が正常化するまで食塩付加は継続した。
血中Na値は徐々に上昇し入院24日目には、137mmol/l(正常値:134~148mmol/l)と正常化している。

入院7日目
激しいせん妄が出現し、デイルームで服を脱ぐ、夜間徘徊、天井を破壊するなど行為が出現した。
このため 鎮静目的に以下のように処方した。
Rp  クエチアピン(25mg) 1錠 1日1回夕食後

その後 クエチアピンを50mgに増量し、不穏状態に対してはリスペリドン液1mlの頓服で対応した。

入院17日目
せん妄は完全に消失し、穏やかとなったため開放病室サイドに転室となった。低Na血症の改善に伴い長谷川式簡易知能スケールでも18点(満点30点)となり、「軽度の認知症」のレベルまで改善した。食塩の経口摂取に関しては自宅での生活を考慮して、海苔の佃煮で代用することにし、家庭での低Na血症の予防は可能となった。

入院24日目
血中Na濃度 137mmol/lと正常化した。

入院66日目
介護支援体制の準備が整った為、自宅へ退院となる。
退院時処方  クエチアピン(25mg)2錠 1日1回 夕食後

診療のポイント
入院加療により低Na血症の精査を行ったが、原因は特定出来ず、尿中Na排出増加のみが明らかとなった。治療としては対症療法であるが、食塩の経口摂取、その後海苔の佃煮で代用としたが、低Na血症は予防可能で支援調整ののち自宅退院となった。老年期の意識障害や認知症の増悪時には低Na血症を疑い、低Na血症が存在すればそれに適切に対処すること(参照22)がポイントであろう。