外来症例11 少量の抗認知症薬が著効したアルツハイマー型認知症

Key word 多剤併用 薬漬け 向精神薬中止 少量抗認知症薬 

80歳代 女性

数年前より認知症進行。2年前当院初診。CTにて脳萎縮あり。改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下長谷川式スケール):11点/30点。妄想、介護抵抗などの認知症周辺症状はないため薬物療法は行わず、認知症の対応を家族に教示した。1年前に大腿骨骨折で他医療機関に入院となった。それを機に幻覚が出現し不穏・不眠となった為、前医にて抑肝散、グラマリール75mg、リスペリドン1mgなど処方された。3ヶ月後退院し在宅介護となる。その後失禁などあり自宅介護困難で高齢者介護施設入所となった。盆外泊時「ぐったりして呼びかけにも反応のない状態」を見かねた家族の判断で薬を中止したところ過鎮静状態は改善。薬物中断で妄想など周辺症状が出現する事はなく、お金の心配や体の不安を口にする程度であった。その後施設に戻り服薬が再開されたところ、活動性が再び低下し食事も摂れなくなってきた。このため「薬漬け状態を改善して欲しい」と娘の希望で、前医からの紹介状を持参され当院受診に至る。
前医では、抗認知症薬としてアリセプトとメマリーを併用、抗精神病薬はリスペリドンが1mgから0.5mgに減量され処方されていた。

経過

受診時
車椅子の背にもたれるようにぐったりして診察室に入室。会話は可能であり、長谷川式スケールは7/30点で認知症は2年前より進行していた。ぐったりとし目を閉じておられる様子から薬物による過鎮静と診断し抗認知症薬、抗精神病薬は一旦中止し経過観察をする事とした。

1ヶ月後
娘同伴。「薬を止めて良くなっていたが、帰園するとまた以前の薬を飲まされてぐったりとなった」と施設の対応に不信感を持たれ施設退所し現在は在宅介護をされている。認知症の治療を希望され、毎月の通院を約束される為、受診間隔に合わせ、1ヶ月毎に増量できるレミニールODを選択した。
レミニールOD 4mg 2T /1日2回 朝食後 夕食後

2ヶ月後
劇的に良くなったと娘。前回の「呆とした表情」と異なり、「しまりのある、しっかり覚醒した表情」が印象的であった。ご本人が「先生のお陰です」と言い笑われる。
長谷川式スケール9/30点。前回検査よりわずかに認知機能が改善していた。食事も家族と同じ物を食べて家庭に適応している。

3ヶ月後
嫁同伴。顔つきもすっかり変わり表情良い。声も大きくなり元気になった。
トイレにも一人で行けるようになって、日常活動の大幅な改善に吃驚しているとご家族が言われる。以前は夫に対しては何でもハイハイだったが、最近では自分の考えを表現されるようになり、その結果口論する場面も出てきた。
医師:食事は食べていますか> ご本人:十分食べています。
長谷川式スケール9/30点で不変。

5ヵ月後
嫁同伴。以前は食事介助が必要で失禁もあったが、今は食事、排泄は完全に自立した。長谷川式スケール13/30点。長谷川式テスト中も笑ったり冗談を言ったり情動面の改善も著しい。

診療のポイント

認知症の中核症状や周辺症状の治療の為、抗認知症薬や抗精神病薬の多剤併用療法で所謂「薬漬け」となり過鎮静となる認知症患者は稀ではない。
このような患者の治療のポイントはまず向精神薬を全て中止してみる事であろう。その上で中核症状か周辺症状の治療を優先すべきかを見極める事が重要である。
本症例ではレミニールを単剤処方し、長谷川式スケール、ADL(Activity of daily living:日常生活動作)共に著明に改善が認められた(⇒参照15)。レミニールは初期用量で効果が認められたので維持量まで増量を行わなかったが、その事が反って患者の覚醒水準を適正に保ちこのような劇的な改善をもたらした可能性がある。