外来症例12 認知症の周辺症状と薬物療法

Key word   抗精神病薬 抗認知症薬 併用療法 覚醒水準

90歳代 女性

6年前に腰椎圧迫骨折をし、以来整形外科医院に入院している。数年前から「家の中に人が大勢いる」など言っていたが、最近ひどい。昔の知人と会話(独語)したり、昼夜逆転している。またベッドから降り、部屋の中を這いずり回る。どの様に対応したら良いかと当院医師に口頭で相談があった。認知症による幻覚、妄想状態(認知症周辺症状)と判断され当院医師のアドバイスによりエビリファイ3mg投与開始。症状改善が認められない為、整形外科医の判断で9mgまで増量されたが不活発となった。現在6mgを維持量としているが全く症状改善が認められないとの事で同医院からの紹介状持参し当院初診に至る。

経 過

初診時
穏やかに簡単な会話は可能である。しかし活気に乏しく、昼夜逆転が認められる事から低覚醒状態に起因する認知症の周辺症状であろうと診断し、以下の返信を書いた。

別の抗精神病薬で対応する方法もありますが、抗認知症薬を併用して認知症の周辺症状が劇的に改善する場合もありますので、抗認知症薬を以下の通り処方致しました。エビリファイ6mgは継続していただき、1ヶ月後当院でフォローさせて頂きたいと存じます
レミニール4mg 2T / 1日2回 朝食後・夕食後

1週間後
同医院より、変化がないので当院へ転院をさせたいと医療相談室に連絡が入る。

当院入院を要するような激しい症状ではないこと、服用1週間では治療効果はみられない事を説明。今しばらくの経過観察をお願いするとともに、対応が困難であれば高齢者介護施設への転出も考慮して頂く様に医療相談室を通じて返答した。

1ヵ月後
同医院に継続入院中。次第に幻覚症状や昼夜逆転も改善。今まで介助を要した食事も現在は自立され、セッティングすれば自力で摂取可能となった。表情も以前よりしっかりとしておられる。
当院での治療は終結として同医院で継続入院フォローとした。以後3ヶ月間は当院への相談の連絡はない。

診療のポイント

筆者は認知症の周辺症状の治療では、激しい精神症状(過覚醒の精神症状)の場合は抗精神病薬のみで治療を行い、抗認知症薬は併用しない。一方、拒絶や興奮症状なく、昼夜逆転のような穏やかな周辺症状(低覚醒の精神症状)の場合はまず抗認知症薬で治療を開始する (⇒参照16)。
しかし、本症例の様に抗認知症薬と抗精神病薬の併用療法で劇的に周辺症状の改善が認められる症例にもまま遭遇する。抗精神病薬に抗認知症薬を付加すると有効な症例において、もし最初から抗認知症薬で治療開始すれば有効か否かは定かではない。