外来症例27 ストレス誘発性過眠症と身体化障害

Key word: 仕事ストレス 過覚醒性睡眠障害 日中の眠気 身体化症状

20歳代女性
県外の医療事務専門学校2年卒後、診療情報管理士コース1年卒後、同県の80床規模の病院に就職し2年目。
1年目は診療情報管理士の試験に不合格だったが、2年目(本年)3月には試験に合格し、4月より同病院では唯一人の診療情報管理士として周囲の期待が大きくなり、プレッシャー感じる。実務はベテランスタッフの指導がないと不可能であり、先輩から細かい教育的指導・指摘が頻回に入り、ストレスであった。本年5月になり他部署から急に多くの質問が寄せられるようになった。ある時、質問に対して「答えは頭では分かってはいるが、どう返答して良いか分からなくなり」、返答に窮した。以後喉が詰まったような感じが生じた。そのような状態が続くうちに、8-9時間眠っても疲れた感じが残り、出勤しても9時頃から眠気が襲う。以後四六時中眠気があり、頭が働かず、能率がガクンと落ちた。心療内科を受診したところ、ストレスが原因と言われ、抗うつ薬と抗不安薬が処方されたが一向に改善しない為、帰省し当院初診に至る。

初診時
生活歴・病歴の詳細を本人が作成した文書を持参して受診。
最も困る症状を困る順に列挙するように言うと
1) 過眠・日中の眠気
2) 眩暈・頭痛
3) 食直後の腹痛
4) 喉のつかえた感じ
と訴え、本人の生活歴・病歴及び症状を総合的に勘案すると、仕事ストレスによる「ストレス関連身体表現性障害」であろうと診断した。
親元で静養すれば服薬なしでも自然治癒するとも考えて、1カ月間休業加療するように勧め診断書を作成した。しかし、ストレスにより睡眠障害が惹起されている可能性も考えて、スリープスキャン(睡眠時の体動を指標に睡眠状態を評価する機器)を服薬なしの状態で実施し、次回の診察を予約とした。

経過
6日目
家でも職場と同様何時間寝ても眠気残り、日中も眠い為、昼寝をしていたと報告する。
また身体症状も改善はないと言う。

【スリープスキャンデータ】

20歳代前半者の睡眠パターンとしては極めて異例に睡眠の質が悪く、単なる過労による過眠症ではなく、ストレス性に過覚醒が生じ、睡眠障害が生じている事が伺われた。
この為以下処方した。

ブロチゾラム(0.25) 1T
ロゼレム(8)   1T
スルピリド(100)  1T 1日1回 就寝前

10日目
熟眠感のある睡眠になった。しかし起きても尚眠くて、頭が働かず、まだ何時間でも眠れる気がする。母が階下でゴソゴソすると、ハッとして覚醒する。まだ疲れが残っている感じがすると言う。
初診時の「眩暈、頭痛、腹痛、喉のつかえ」は全て消失したが、日中の眠気は1/3位は残っている感じがすると言う。

【スリープスキャンデータ】
スリープスキャンデータは著明改善しが、尚ストレスの影響を反映したスリープパターンである事を示していた。
日中は朝食を9-10時に食べて、テレビを見て疲れて昼寝している。
初診時の過労度を100%とすると、現在の過労度は40%位。
食欲も出て、過食傾向。甘いものも食べたいし、塩気も欲しいと言う。
ストレスからの回復過程にあると考え、継続処方とした。
正常睡眠周期への同調を促すため、日中必ず1回は日光・外気に当たる様にと指示しておいた。

16日目
疲労度50%
薬を3日分飲み忘れていた。
身体症状はないが、仕事に行けるかどうか不安と訴える。
抗不安薬追加処方した。

1) セレナール(10) 2T  1日2回 朝・夕(1回1錠)
2) ブロチゾラム(0.25) 1T
  ロゼレム  (8)   1T
  スルピリド(100)  1T   1日1回 就寝前

27日目
元気になった。
セレナールで不安は取れた。
疲労度は20%位。
日中の眠気はあるが、耐えられる。
1ヶ月間の休職を終え、3日後から出勤すると言う。

出勤1カ月後
毎日休まずに出勤している。先輩に理解して貰え、サポートして貰っている。
日中の眠気は>眠い時と, そうでない時がある。
疲労度は>20~30%、週の真ん中が辛い。始業が8時と8時半の勤務が半々ある。早い勤務の方が辛い。
睡眠の質は良くなったと思う。身体症状はなく、帰宅後もちゃんと食事している。仕事は続けられると思うが、「何で生きるのかとの思いはずっとあり、韓国のエッセイを読んで色々考えている」と話す。

診療のポイント
初診時に診断したようにストレス関連身体表現性障害である事は間違いないとしても、本症例の特色は本人自己申告のように睡眠障害であるので、スリープスキャンを用いて睡眠障害に的を絞った診断・治療を行った。スリープスキャンデータより、単なる過労性過眠症であれば服薬なしでも自宅静養すれば良質な睡眠が得られるはずであるが(外来症例14参照)、本症例では自宅安静のみでは睡眠障害の改善は認められなかった。ストレス誘発性過覚醒状態が本症例の本質的な病態であるとスリープスキャンデータから読み取り、薬物療法の選択に関してベンゾジアゼピン睡眠導入剤のみを処方するのではなく(外来症例14参照)、過覚醒状態の是正をスルピリド処方により、さらに睡眠周期を正常同期させる為に、メラトニン作動薬ロゼレムの2剤を併用処方した事が治療成功のポイントと言えよう。