外来症例4 統合失調症者の突然の右手指振戦

 

Key word   抗精神病薬    長期投与    遅発性錐体外路症状

60歳代男性

中学卒業後就職したが、他者への暴力行為があり職場を転々とした。21歳時行方不明となり、発見時は興奮状態を呈し初回入院となる。以後18回入院歴がある。40歳代で退院した後は外来通院で安定し、軽作業に従事していた。退院後20年以上、処方はスルピリド800mg、セドリーナ(抗コリン薬)4mg、レンドルミン0.25mgで固定されていた。

症状・経過

「急に右手が振るえるようになった」と訴えがあったため、外来担当医は遅発性錐体外路症状と考え、リボトリール0.5mgを追加した。しかし症状の改善がみられないため、リボトリールを1mgに増量したが症状は持続した。

3ヶ月後、手の震えは増悪。またカッとなり易く暴力行為に及ぶため、かつての主治医である筆者の診察日に受診された。口舌ジスキネジア(もぐもぐ運動)もあり、遅発性ジスキネジアと診断し、セドリーナを除去し、処方をバレリン 1200mg、リボトリール1mg、 レボトミン25mg、レンドルミン0.25mgとした。

処方変更3日目、振戦(手の震えやもぐもぐ運動)は完全に消失した。

処方変更14日目、構音障害(呂律不良)があるため、レボトミン過量と判断し同薬を減量した(25→10mg)。以後錐体外路症状は消失し、「カッカッとする」事もなく精神的にも安定して軽作業に従事している。

診療のポイント

この症例は統合失調症というよりも知的障害の興奮状態の要素が強く(幻覚妄想などは発症以来認めていない)、スルピリドのような強いドパミンブロック作用はこの症例の治療には本来不必要であったのかも知れない。「手が震えるようになってカッカッし易くなった」のはsupersensitivity psychosis(過感受性精神病)によるものかも知れない。抗コリン薬を除去し、錐体外路症状惹起作用の少ない薬物に処方変更する遅発性ジスキネジアと同様な治療をする事がポイントであった。またバルプロ酸(バレリン)はこのような症例の興奮性を抑えるのに最適な薬物であろう(⇒参照2)。