外来症例8 暴力を伴う難治性てんかん

 

Key word 過量投与 拒薬 血中濃度 防衛反応としての暴力

 20歳代 男性

中学2年時より痙攣発作があり神経内科で加療。18歳から県外のてんかん専門病院で治療を受けている。最近街中で、金属バットで素振りをするなどの奇異行動や、それを注意した家族に手を挙げるなど粗暴な行為が目立つようになった為当院受診に至る。

治療経過

初診日
てんかん治療は引き続き専門病院とし、当院では攻撃性などの精神症状を治療目標に薬物療法を行う事とした。
リスペリドン2mg  1錠 1日1回 夕食後

3ヶ月後
依然攻撃性は続いている。特にCDやお菓子を欲しがって困ると家族から訴えがあった。てんかん発作はコントロール不良。
リスペリドンから、より静穏効果の強いジプレキサに処方変更した。
ジプレキサ5mg 1錠 1日1回 夕食後

この後、攻撃性は抑制された。

5ヶ月後
てんかん治療の主治医から、てんかん発作コントロールのためフェノバールを増量していくので、当院にて血中濃度測定を行いフォローして欲しいと依頼があった。
フェノバールの増量が行われ、一日量180mgの高用量になったが、フェノバール血中濃度は低値のままで治療有効濃度に達しなかった(⇒参照11)。
てんかん発作コントロールは依然不良。

10ヶ月後
最近は父親にまで暴力が出て困るとの訴えで受診に至る。
どの様な場合に暴力が出るかと家族に尋ねたところ、家族の目の前で薬を飲むように言った時に暴力が出る由。本人に聞くと「両親が薬を飲めと言うので腹が立つ」「薬を飲むとふらつく」と訴える。

この時点での抗てんかん薬(1日量)は、アレビアチン275mg、テグレトール400mg、フェノバール180mgであった。通常量の倍量のフェノバールが処方されているにも関わらず血中濃度は依然治療有効濃度に達せず、ふらつきなどの副作用が前面に出ていたため、フェノバールを半分量にしようと提案したところ、険しかった本人の表情は途端に和らいだ。

父親に本人の暴力は薬物の副作用から自分自身を守る防衛反応であることを説明したところ納得される。本人にも医者は君の味方なので自分の要望ははっきり言って、その代わりきちんと服薬する事を約束させた。また保護者から、てんかん治療も精神症状の治療も当院で行って欲しいと希望される。
この為、睡眠作用の少ないバルプロ酸1000mg(デパケンシロップ20ml)単剤で治療を開始する。

その後アレビアチン200mg(10%アレビアチン散2g)を併用し、以後血中濃度は治療有効域に収まるようになった。
最終処方(1日量)は、バルプロ酸1000mg(デパケンシロップ20ml)、アレビアチン220mg(10%アレビアチン散2.2g)、イーケプラ1000mg。

てんかん発作のコントロールは多少の自動症はあるものの許容範囲となる。
粗暴行為は一旦終息した為ジプレキサを中止したところ、その後再び街中で粗暴行為があったためエビリファイ液6mlを追加処方した。

暴力もなく6ヶ月以上経過している。

診療のポイント

本症例は、処方薬の副作用から服薬が遵守されず、血中濃度が上昇しなかったケースである。服薬状況を確認せずに血中濃度値だけで判断して、薬物増量を行う事は極めて危険である。また、確実な服薬のために水薬や散剤を用いることが有効な場合もある。副作用で患者を苦しめる事のない薬物療法を行い、信頼出来る患者・医師関係を築くことが大切である事を痛感した症例である。

外来症例8 暴力を伴う難治性てんかん への18件のフィードバック

  1. Mi のコメント:

    初めまして うちの息子は小学校四年の頃にてんかん発症しましたその後治療を続けていましたが18歳の時には治りますよと言われたのですが今は36歳です入退院を繰り返し 今では施設の方でお世話になっていますがそこの利用者さんとちょっと揉めて手を出して しまいました その後それを繰り返し今は他の施設にお世話になっています この暴力的なてんかん発作は治るのでしょうか

  2. soy のコメント:

    中学生の男の子に不安や緊張、易刺激性を落ち着かせるためにリスペリドン0.2mgよりやや少なめを服用 させています。
    0.25mgだと頭痛・口がまわらない・ボーッとするなどの副作用が出てしまいます。

    時々、錯乱状態になります。リスペリドンを飲んで2~4時間後です。沈静さするどころか錯乱状態になるのはリスペリドンの影響でしょうか。

    • 西川正 のコメント:

      0.25mgのリスペリドンで過鎮静が生じ、リスペリドン服用後2-4時時間後に錯乱状態を呈するとの事ですが、リスペリドンがこの方の不安・緊張状態の適応ではないと思います。他の有効性のある薬剤を検討して貰われて下さい。

  3. jp のコメント:

    暴力というか突然キレる弟について相談です。入院歴はなしでてんかんもありません。人に暴力などもしません。ただ突然キレて電化製品を壊します。自分の部屋の電化製品は壊しません。その事はわかってての行動だと思います。母と同居の40代です。 統合失調症の母が不安定な為、ストレスで突然キレて電化製品を壊し母を追い出し困っています。20年も続いています。電化製品を壊すと生活ができなくなるからわざと壊して母を追い出す事をしていると思いますが頻繁にあるので聞いた方は発達障害では?精神的に悪いのか?不眠症?などと驚かれます。精神に異常があるのでしょうか。壊す前に相談してくれる?と言っても黙ったままで電化製品を壊しだします。その度に母を各家庭へ避難させる生活が続いて困っています。不安定な母も怯えながらの生活をしています。弟は病気でしょうか。時計のカチカチという音が気になって寝れないと言って時計を外したという話を聞いたことがあります。保健師には、壊すたびにしょっちゅう相談しています。精神科、心療内科などの病院は行ったことがありません。

    • 西川正 のコメント:

      雲を掴むような御相談で何と返答すべきか分かりません。精神保健相談を利用されて一度精神科医の診察を受けられたら如何でしょうか。

      ※精神保健相談:地域の保健所、精神保健福祉センターなどが窓口になり、こころの健康や医療について相談を受け付けています。

  4. 水無月 のコメント:

    5歳で良性ローランドてんかんと診断されました。2度の全身発作があったため、ケープラを朝晩25mlずつ処方されました。もともと元気が有り余ったような活発さがありましたが、お友達と遊ぶ際は興奮気味に活発さが増すことや、感情が高ぶったり、突然怒り出したり、最近では物に当たるようになり、大きな音を出したりします。発作は落ち着いていており、就寝中に見られた体のピクピクもたいへん収まっているように見えますが、感情や行動の変化は薬のせいでしょうか。このまま成長すると思うと、将来的に更に乱暴な行為や言葉を使うのではないか、その性格がスタンダードになってしまうのではないかと心配になります。

    • 西川正 のコメント:

      ローランドてんかんは服薬なしでも自然治癒する予後良好なてんかんです。文面からは診断に疑義を持ちますので、知能テストを行ったり、てんかん診断の精査を再度行うなどの検討されたら如何でしょうか。

  5. A.Y のコメント:

    16才の弟の事です。3歳の冬に急性脳症かかり、その後、後遺症で重度知的障害と難治性てんかんがみつかり、今までに行く何種類もの抗てんかん薬を試したりしました。(以下中略:ブログ管理者)
    ほぼ毎日発作があり、不機嫌になり、暴れて暴言を吐き、物を投げたり壊したりします。その度に高齢の父親と弟が抑えて落ち着かせるのですが、幻聴があるのか妹やあたしが離れた場所で話してる声も悪く聞こえてしまうようで、暴れるのがひどくなります。暴れはじめたきっかけがフィコンパという薬を飲み始めて3ヶ月たってから酷くなり、その薬も止めて今現在は抗てんかん薬だけですが、不機嫌になると暴れるというのは今現在もあります。
    父が主治医に暴れる事などを相談しているようですが、てんかん発作が原因といっているだけで、対処法や薬などを処方する話はないようで
    家族全員困っています。何か対処法などないものでしょうか?

    • 西川 正 のコメント:

      大変ご心痛な事と拝察致します。文面を拝見致しますと、家庭介護は限界と思われ、知的障害者施設か精神科病院でのケアしか方法がないと思われます。

    • A.Y のコメント:

      群馬県内なんですが、施設に預けるか入院にさせるとなると、早急だとどこの期間に相談したらどのように相談したらいいでしょうか?

      精神神経科がある国立のぞみの園に暴れることで以前相談して薬をリスパダールとテグレトールをだしてもらっていますが、変わらずです。
      父親が怪我をしつつも必死で抑えているので、つらいです。

    • admin のコメント:

      A.Y様 ブログ管理者です。
      多くの方のご相談をお受けするために、執筆者からの回答は1回限りにさせていただいております。ご了承ください。

      参考までに、ご案内いたします。
      各都道府県では、地域の方の心の健康に関して相談窓口を設けています。
      適切な医療機関のご紹介、対応など相談に応じてもらえるのではないかと思います。

      群馬県では「群馬県こころの健康センター」となっております。
      ※ こころの健康相談 相談専用ダイヤル 027-263-1156

       

  6. Y のコメント:

    子どもの事です。18歳の女子です。2年前にてんかん発作がでて、いくつかの病院をたらい回しに行きました。
    入院も何度し、検査、手術をした結果、側頭葉てんかんと診断されました。
    現在は薬の調整でてんかん発作は抑えた感じです。
    ただ逆に毎日暴れるようになり、妄想感強まり、妻や息子に強い嫌悪感を抱いています。妻や息子の部屋をめちゃくちゃにしています。
    警察に何度も通報しています。
    このままだと、家族の方がおかしくなりそうです、どのような対処をした方がいいのでしょうか。

    • 西川 正 のコメント:

      精神科を受診され、適切な抗精神病薬による治療が必要と思われます。場合によっては入院加療も考慮されるべきでしょう。

  7. N,M のコメント:

    子ども7歳。3歳の頃にてんかん発作を起こし、その後テグレトール3年服用、移行期間半年おいて1年前にイーケプラ0.3gのみに変更しました。
    年に一度程度の右側の痙攣が主でしたが、発作が増えた為イーケプラに変更しました。
    口元の痙攣も徐々に増え始め、3ヶ月前には口元の痙攣があり、それ以降は発作がなくてもよだれが出る事が増えました。
    それ以上に、暴言、神経過敏、イライラ、しつこさが毎日あります。
    発作が原因なのか、成長の過程なのか、環境の変化が原因なのか?

    てんかんでこのような症状は出るのでしょうか?

    • 西川 正 のコメント:

      恐らく、発作を繰り返す事により形成される脳障害による「てんかん性性格」と思われます。このような症状がある事を主治医に話されて、対策を検討して下さい。

  8. N のコメント:

    子供のことです。子供は左側頭葉てんかんです。
    薬物療法では、発作は抑制されず、イーケプラ、テグレドールの二種類を試し、外科手術に進みました。
    三種類目を服用しながら、手術を待ちました。
    ピムバットは、発作を抑制しましたが、目がチカチカする副作用はありました。
    手術で発作の焦点を摘出しました。
    発作はなくなりましたが、、
    きれて暴力を振るうことが増え一旦暴力を振るい出すと15分は止まりません。
    日々どうしたらよいかわからずにいます。

    • 西川 正 のコメント:

      Nさんのコメントに返信。
      現在何科で薬物療法を受けておられるのでしょうか?このような症状に対しては抗てんかん薬だけでなく、抗精神病薬の投与が必要です。私はアリピプラゾールがこのような症状には有効と思いますが、抗精神病薬の処方に関しては精神科医が習熟していますので、まずは現在の主治医に相談され暴力が治まらない場合は精神科を紹介して貰われたら良いと思います。

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