外来症例6 パニック障害の病名告知と治療

key word  パニック発作 初診時の対応 治療戦略 薬物療法

20歳代男性

紹介状を持参され初診。

紹介状:吐き気が主訴の方です。吐き気は会食時に多く、一人での食事では出現しません。家族との食事でも出現する事があるため典型的ではありませんが、社会不安障害的な側面があります。また床屋、高速バスなど拘束される場面が苦手で、広場恐怖の症状も持っています。現在 ルボックス100 mg、頓服としてリボトリール0.5 mg 1Tを処方しています。

 初診時診察状況

不安そうな表情で診察室に入室。発病時の病歴を聴取すると、多忙で過労状態であった。紹介状と病歴の問診でパニック障害を疑い、最初に吐き気を感じた時の状況を聞いた。「初めて吐き気が出たのは、外食中に味噌汁を飲んだ時に感じた」「以来スープなど飲む時、吐いたらどうしようと気になり、人前で食事が出来なくなった」「薬を飲むと吐き気は軽くなったが、何故このような事になるのか分からないので不安でたまらない」と訴える。

 診断・治療・対策

「貴方の症状はパニック障害で、体調不良な時の不快体験をきっかけに誰にでも起こる。薬をきちんと飲み続け、パニックを克服する必要がある」と説明し、著者のパニック発作体験~自己洞察と曝露療法により発作を克服~(※文末に記載)を話した。

そしてパキシル10mg、スルピリド100mgを夕食後に処方し、薬を飲み続けるように伝えた。

 治療経過

2週間後

薬はずっと飲んでいたが服薬しても良くならない。それどころか3日前から「夜中に目が覚め、過呼吸があり、吐き気が起こる気がする」と訴える。

夜間の症状を、予期しないパニック発作の一種である『睡眠パニック』と診断し、リボトリール1mg(抗不安薬)を追加処方した。

以後日中の吐き気も睡眠パニックも完全に抑制された。

2ヵ月後

服薬していて過呼吸や吐き気の心配はまったくなくなった。しかしこの4日間は薬が切れていて眠れず不安と訴える。薬が切れて、薬の有難みが本当に分かったと謝辞を述べる。

 診療のポイント

パニック発作は薬物療法だけで著効する例もあり、またパニック発作の病態の説明や不安発作に対する対処を教示するだけで(著者の自己洞察例のように)短期間で軽快する例もある(⇒参照6)。

パニックの治療は最初の体験を詳細に聴き言語化(意識化し自己洞察させる)する事が重要である。パニック発作克服者の例を初診時に話し自己洞察を促し、パニック発作の長期の治療戦略を示す事は予後(病気の経過)を良好にする。なぜパニックが起こるかを認識させ、パニック反応が条件付けられないようにする(慢性化させない)事が重要である。

※  著者のパニック発作体験~自己洞察と曝露療法により発作を克服~

「最近子供が生まれた」と嬉しそうに話す同僚を助手席に乗せ、夜間高速道を九州に向かい運転中であった。当時著者は極めて多忙で疲労が蓄積していた。北九州あたりで、次第に高速走行が出来難いと感じ、酸欠感もあったため同僚に断り路肩に一旦停車しミカンを食べた。夕方出発して深夜に久留米に着くというハードスケジュールを心配した妻が、疲れたら食べるようにと持たせてくれていたミカンであった。再出発したが、高速走行不能で50km位の速度しか出せない。そこで高速道を降りドライブインに入った。トイレに入り鏡を見ると顔が青ざめている。そこでパニック発作を起こしていると自己診断した。たしかに疲れており、運転中に『ここでハンドル操作を誤り事故を起せば、我らが命を落とすだけでなく、同僚の子供は父無し子になる』との考えが運転中に頭をよぎったことが想起された。ドライブインで食事後、心理学者である同僚にパニック発作を起こしたようだと伝え、「今から高速に入って恐怖感を消す」と説明した。自己開示した事で気楽になり、思い切りアクセルを踏み込み、恐怖心に打ち勝つ事で高速走行が可能となった。その時同僚は、「落馬したらすぐまた乗れと言いますから、曝露療法ですね」とコメントしてくれた。