参照28:向精神薬の減薬・退薬

統合失調症の減薬・退薬に関しては下記の著書(※)に詳しく述べているが、ここでは精神疾患全般に関する減薬・退薬に関する著者の基本方針を述べておく。

まず向精神薬は長期処方となる場合が多いので多剤・大量処方は、重篤な副作用や依存形成の恐れがある為、単純処方を心掛ける必要がある。急性期に多剤・大量処方となった場合でも、病状が安安定すれば速やかに減薬し、処方を単純化すべきである。
減薬・退薬に関しては本人の意向、再発症状の重篤性、現在の社会適応レベル等を総合的に判断して実施する必要がある。たとえば、良質な睡眠が取れずに日中活動に支障を来した患者が、薬物服用によりQOLが改善し満足している場合は、敢えて退薬を勧める必要はなかろう。また病気が完治した事を証明したいと退薬を希望する統合失調者に、同病は不治の病との私見により「統合失調症は一生涯の服薬が必要」との自説を押し付ける事も問題であろう。服薬継続のメリットとデメリットを患者に十分示し、出来るだけ本人の意向に添う形で減薬・退薬問題に取り組む治療者であるべきであろう。

以下疾患別に述べる。

1)神経症関連(不安障害、パニック障害、身体化障害、適応障害を含む)
依存が問題となるので常用量以上の処方は避ける。症状に頓服薬で対応する事は症状に注意が向きがちとなる為、極力避ける。薬物中断して症状が再燃しても個人レベルの適応問題(自傷・他害などの重大な問題行動でない)の場合、病状が安定すると自然に服薬を忘れるので、それで症状が再燃しないならば受診せず服薬中断しても良いと告げる。薬を飲んでいる方が不安なく、快適と感じているならば継続服薬すれば良いとの指針を示す。

2)気分障害関連(抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬)
① 単極うつ病
初発うつ病の場合は病状が安定して社会生活が円滑に営める状態となり、6カ月程度症状が安定した時期が持続すれば、「その時点から段階的に減薬を試みて退薬を目指す」との指針を示す。

② 双極性障害及び単極躁病
単極うつ病と比較して明らかに減薬退薬は困難である。これらの疾患では抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬を併用処方する場合が多いので、本人の再発予防にもっとも有効な薬物を最終的には単剤とし、その薬物を「統合失調症の断薬プログラムに準じた方法での退薬」を指針として示す。

3)統合失調症関連
(分裂病治癒者のカルテの記述をその後の実践を踏まえ、改訂して記述)
統合失調症も短期精神病のような予後良好疾患から減薬・退薬困難な重症例まで多様な疾患群である事を認識し、一律な対応をしないように心掛ける事が肝要である。LAI(long-acting injection:持続性注射剤)は減薬・退薬を想定している場合は使用すべきではない。
薬物減薬は急性期には迅速(1~2週間毎)に、症状安定期では緩徐に減薬(数カ月単位)する。多剤処方であれば、主剤を最終的には単剤とし、さらに最少単位剤型とし(たとえばリスペリドン錠であれば3→2→1→0.5mgと最少用量錠剤まで減薬)、その後断薬プログラムに導入する。
退薬を行う際の前提は、寛解状態の一定期間の持続である(1~3年)。初発例では短期間の寛解期間で退薬が成功する場合が多いが、再発例ではより長期間の服薬継続を要する。最少量まで減薬し、そのまま退薬するよりも、断薬プログラムに導入後、退薬を行う方が退薬成功の確率が高まる。断薬プログラムとは隔日服薬、3日に1回服薬、週1回服薬を各期3~6カ月程度経て、完全退薬する方法である。減薬・断薬プログラム期間中は再発症状に注意を払い、特に不眠は再発症状の前駆症状であるとの認識を持つ事が重要である。
治癒基準:「完全退薬後何年間再発がなければ治癒と判断するか」の問題は、諸説あるが、筆者は3年間再発がなければ治癒(leveling off)と考えている。

※ 西川 正:分裂病治癒者のカルテ. 星和書店, 東京p1-164, 2002.