外来症例7 普通高校卒知的障害者の職場不適応

 Key word   職場のいじめ うつ状態 障害年金 障害者雇用

 30歳代男性

普通高校卒。工員系の仕事を各地で転々としている。既婚。
数年前からは下請け工場に勤務している。勤務を始めて1年が経ったころから、仕事に効率を求められるようになった。リーダーから暴言を吐かれたり女性の同僚からもあれこれ文句を言われる。段取りが悪いので早く行って準備をしようとしたが、早く来て仕事をしてはいけないと叱られる。その後配置転換があったが、それを契機に更に職場適応困難となった。
前日内科医院を受診して、うつ病と診断され抗うつ薬の処方と1ヶ月の休業加療の診断書を受けた。セカンドオピニオンを求め、家族と当院受診。

診察・診断・対応
初診時
本人はイライラするとしきりに訴える。診察での会話は稚拙で、普通高校を卒業しているが、当時の成績は最下位に近かった様子。職場では仕事に慣れるまで大目に見られていた様であるが、習熟が遅いために次第に責められるようになった事が推察された。

知的障害による職場不適応を疑い知能テストを行い、以下の診断書を書いた。

イライラ感、抑うつ気分を訴え受診されましたが、知能テストの結果、軽度知的障害を認め、知的障害に基づく適応障害と診断しました。療育手帳(知的障害用の障害者手帳で障害者雇用にはこれが必要)に該当しますので手帳申請を勧めています。現在の就労条件では就労困難であり、今後3ヶ月間の休業加療を要します。

薬物療法は行わなかった。

経過
休業中は傷病手当を受け生活。

初診50日後
休職のストレスからか「吐き気、頭痛」を訴える為、セレナール(10)2T /1日2回 朝・夕 処方した。

初診4ヶ月後
会社から障害者雇用の申し出があり、一般雇用から障害者雇用に雇用形態が変更となり、配属部署も配慮された。
職場のいじめもなくなり、障害年金と障害者雇用の賃金で以前と同様な生活を送っている。

診療のポイント
知的障害や発達障害(アスペルガー症候群など)が幼少時期に看過されたまま成人し、職場不適応となる例に稀に遭遇する。こうしたケースでは障害年金制度の利用を勧めたり、適職へのアドバイスを行う事が不可欠である。この職場の場合、直接交渉せずとも診断書を提出しただけでこのような労働条件の変更が受け入れられ、職場のいじめが無くなった事は幸運と言わざるを得ない。この会社には知的障害に対する理解があったと思えるが、障害への理解が広く普及する事が望まれる。