参照16:認知症周辺症状の治療と覚醒水準

筆者は認知症患者の薬物療法を行う際に、覚醒水準(意識の明確さの度合い;脳全体の機能状態)という概念を重要視している。幻覚妄想や拒絶のような過覚醒により生じる周辺症状の場合は、通常はセロクエルやエビリファイ等の抗精神病薬を単剤で使用した方が有効である。このような覚醒水準の高まった病態に抗認知症薬を使用すれば覚醒水準をさらに高め周辺症状を悪化させる可能性が高い。一方覚醒水準の低い認知症状(活動性低下した状態)や周辺症状(穏やかな問題行動)の場合は抗認知症薬の単剤使用が有効と考えている。しかし外来症例12の様に抗精神病薬と抗認知症薬の併用により周辺症状の改善が認められる症例も稀ではない。この併用療法の作用機序に関しては不明であるが、うつ病や統合失調症でも、それぞれにほぼ逆の作用機序を有する抗精神病薬と抗うつ薬を併用して有効な場合もあり、認知症症状の治療も同様と考えている。