入院症例28 抗パーキンソン薬の副作用で幻覚妄想、興奮、ジストニアを呈した認知症

Key word 抗パーキンソン薬 多彩な精神・錐体外路症状 減薬 症状改善

80歳代男性

7年前パーキンソン病発症。その後認知症、慢性硬膜下血腫(術後)を合併し加療。近年は、パーキンソン病の進行により頻回に転倒したり、幻覚・妄想など精神症状もみられたが、デイサービスを利用しつつ自宅生活を送っていた。1週間前より、易怒性、易刺激性が亢進、また不随意運動も増えデイサービス適応困難となったため、かかりつけ医より当院へ紹介となる。
抗パーキンソン薬は、メネシット(100mg)8錠/1日量 (1日5回に分割服用)
ロゼレム(眠剤)、抑肝散、五苓散、便秘治療薬、高尿酸血症治療薬など計8剤が処方されていた。

初診時
妻・息子同伴で受診
会話は可能。
首が曲がり、ジスキネジア、ジストニアが認められる。
筋剛直なし。
歩行はスムースで手の振りも良く、パーキンソン症状は軽度であった。

一連の症状は、抗パーキンソン薬メネシット過量による副作用と考えられたが、幻覚妄想はアルツハイマー型認知症の周辺症状(BPSD)を、首が曲がる(ジストニア)・ 不随意運動(ジスキネジア)は、本態性振戦合併の可能性も視野にいれた。
入院で薬物調整することとして、紹介医には以下のように返信した。

返信
診断:アルツハイマー型認知症(BPSD)、パーキンソン病(又は本態性振戦合併疑い)
上記にて入院加療により薬物調整と致します。

入院時処方 メネシットを中止し、ドパストン(レボドパ単味剤)とした。
 ドパストン(250mg)    3カプセル 1日3回 1回1カプセル 毎食後
 リボトリール(0.5mg)   2錠    1日2回 1回1錠 朝、夕食後
 ロゼレム(8mg)      1錠    1日1回 就床前

入院翌日
興奮はないが、小刻み歩行著明で歩行困難となる。
処方変更: ドパストン 1日量 750mg から 1500mg へ増量した。

入院2日目
デイルームで穏やかに過ごしておられる。
車椅子の固定バンドを外してくれと言われるなど疎通は良好。
減薬(レボドパ単味剤への切り替え)によるものか、リボトリールの薬効によるものかは不明だが、躯幹の不随運動なし。
入院前の不随意運動は、本態性振戦というよりはレボドパの過量による薬原性副作用と考えられた。

入院8日目
デイルームにて車椅子上で眠っておられる。
食事摂取が不良となる。
リボトリールによる過鎮静と考え、リボトリールは中止した。

その後、ADLは改善し、摂食良好となった。幻覚・妄想はなく、穏やかに過ごされた。
若干小又歩行がみられたが、自力歩行可能で自宅での生活に支障のないレベルまで改善した。

入院18日目
自宅退院に至る。

【紹介医への情報提供書】
診断:アルツハイマー型認知症 パーキンソン病
薬物調整にて、幻覚妄想状態、パーキンソン病、共に改善し退院と致しました。精神症状や不随運動はメネシット過量処方による薬原性と考えました。

退院時処方
 ドパストン(250mg)   6カプセル  1日3回 毎食後
 酸化マグネシウム(330mg)3錠     1日3回 毎食後
 ロゼレム(8mg)      1錠      1日1回 就床前

診療のポイント
長期に渡るパーキンソン病の増悪・幻覚妄想状態・易刺激性・不随意運動(ジストニア、ジスキネジア)などの多彩な症状が、薬物調整で全て改善した。18日間の入院加療でADLは自立となり、自宅退院となった。
メネシットとドパストンは本質的薬理作用に違いはない。しかし、メネシットはレボドパと末梢性代謝酵素阻害薬の合剤であり、血中レボドパ濃度が長時間維持され、脳内移行量も多くなる。メネシットとドパストン(レボドパ単味)の血中レボドパ濃度を比較すると、メネシットの方が4〜5倍高くなると報告されている。従って、本症例の、メネシット(100mg)8錠からドパストン(250mg)6カプセルへの処方変更は、1/3量程度の減薬に相当すると考える。本症例の副作用は全て既知の副作用であるが、精神症状を認知症の精神症状として抗精神病薬で治療せず、まずは副作用による症状であろうと一元的に考え、単純な減薬で対応した事により早期に良好な治療効果が得られたと考える。