外来症例14 特発性過眠症として紹介された過労性過眠症

key word  就労中の居眠り 睡眠クリニック 診断手法(横断的・縦断的)

19歳 男性

以下の紹介状を持参し、会社上司同伴で当院初診に至る。

仕事中突然の眠気あり、睡眠障害を疑いPSG(睡眠ポリグラフ検査), MSLT(昼間の睡眠評価)を施行致しました。夜間の睡眠障害は特に認められず、またNap(午睡)に対する睡眠潜時は3-4分(特発性過眠の診断基準に合致)でした。レムは1回しか認めず、その他ナルコレプシーの随伴症状もなく特発性過眠症と診断しました。仕事に支障をきたしているようですので、モダフィニル(神経刺激薬)の適応かと思われます。宜しく御加療お願い致します。

当院で聴取した病歴
工業高校卒。土木建設会社に入社。2ヶ月の研修後当地の大型土木現場で働いている。学生時代は居眠りなどする事はなかった。研修中も問題はなかった。昨年の7月に当地の工事現場に来たが、当時から朝5時半起床が出来ない日が週に1-2回あった。上司が起こしに行くと何とか起きる。赴任当時は日中眠る事はなかったが、本年になり、仕事中も短時間眠る。朝は毎日起こす必要がある。就床は11時だが、すぐ眠れる場合と30分位は眠れない場合がある。仕事が終わるのは午後8~10時の間との事であった。

以下問診。
医師:自分では過労と思う?>ご本人:そう思う時もある。
休日は隔週2日であり、1日間の休日も2日間の休日も昼の12時まで寝ている。
月曜日は起きられますか?>起きられないので起こして貰う。
仕事の適性はあると思う?>仕事自体は好き。だけど不向きと思う。朝が早い。体力的に結構きつい。

上司によると仕事中の居眠りは危険なので20日間静養させようと実家に帰したところこの診断書を持参したと言われる。
実家では11時までテレビを見て8時に起きる生活をしていた。日中の居眠りはなかったが職場復帰しても相変わらずの状態との事であった。

持参した睡眠ポリグラフの結果からは睡眠ステージ3,4の深睡眠は16.6%(正常20―25%)であり疲労回復に必要な睡眠が不十分ではないかと考えた。
以上から過労と診断し、睡眠の質を良くする為、睡眠導入剤ハルシオン(0.25mg)1T処方し、早寝、仕事軽減を上司に指示して以下の診断書を会社に提出した。
本人、上司とも診察結果とその説明に納得された様子であった。

診断:過労状態
過労による過眠と診断致しました。睡眠の質を良くする為に睡眠導入剤を処方しました。今後仕事に慣れれば通院の必要はないと思いますが、しばらくは通院加療の必要を認めます。

1ヶ月後
昼間の居眠りはなくなった。仕事も軽減して貰っている。朝は目覚ましで起きるのと、上司から起こして貰うのが1:3位になったと云う。
ハルシオンをデパス(0.5mg)1Tと緩和な安定薬を処方し、次第に薬物中止を提案しておいた。

以後受診なく、職場に適応しているものと推察される。

診療のポイント
特発性過眠症とは原因不明の過眠症であり、ヒスタミン系伝達が低下しているとの報告もある。ナルコレプシーや睡眠時無呼吸症より頻度が少なく、本疾患に対する知名度も低い。本症例は睡眠専門医による診断であり、診断基準に合致していると言えなくもないが、過眠の原因に対する病歴聴取が不十分と言わざるを得ない。特発性過眠と過労性過眠の治療は全く逆であり、検査所見と現症状による横断的診断だけでは不十分であり、十分縦断的に病歴を聴取して何時頃からどの様な状況で過眠が生じているかを考慮して診断・治療を行う必要がある。