外来症例1 孤立不安から生じた身体化障害 

key word うつ病  身体化障害 内科異常なし 孤立不安

80歳代女性

内科医院(かかりつけ医)にて気管支喘息、上室性期外収縮にて加療中。咳がひどい、息苦しいなど多彩な症状を訴えるため、専門医を紹介され受診したが基礎疾患の増悪や新たな疾患は認められなかった。長女が食事の面倒はみていたが、専門医受診後極度の食欲不振となったため、精神的誘因によるものとして内科医より抗うつ薬(ルボックス)が投与開始された。しかし食欲も喘息も改善せず、内科医より紹介され当院初診に至る。

 診察状況

ご本人は不安そうな表情で「息が吸い込めない。食物も飲み込めない。喉が詰まった感じがする」と訴えられる。喘息の場合の呼吸困難は呼気(吐く息)困難であり、喉の詰まった感じは『ヒステリー球』を想起させた。問診により、呼吸器専門医を受診した際「異常はない」と言われたこと、また苦しいので入院したいと希望したが「入院するほど重い病気ではない」と言われたことを、拒絶されたと感じ、それゆえに「食物も飲み込めない。喉が詰まった感じがする」と不安増悪し、ヒステリー反応により極度の食欲不振に至ったことが推察された。

診断・治療・対策

呼吸困難、喉の詰まった感じは身体疾患の重症化によるものではなく、『孤立不安に基づく身体化障害(ヒステリー)』と説明し、「重い病気ではない」と言われことを『拒絶』と感じたことで症状が増幅した可能性があると話した。すると途端にご本人の表情は明るくなった。

以上のことより、孤立不安から生じた(専門医から異常はないと言われて自分の病気は医師から理解されないと思い孤立)身体化障害と診断し、抗うつ薬(ルボックス)ではなく、軽い抗不安薬であるセレナールを処方し、内科医にその旨返信した。

診療のポイント

喘息の症状とは異なる吸気困難。古典的なヒステリーの器官選択の好発部位である喉頭部の詰まった感じはヒステリー球を想起させ、心因性を強く疑わせた。症状増悪につながるエピソードとそれに対するご本人の気持ちを聞き出し、治療面接(受容・説明)で直ちに不安が消失した例である。身体医療で十分な説明なしの「異常なし」は時に逆に不安を惹起し、ヒステリー反応を誘発させる。