入院症例8 極少量のリスペリドンで発症した悪性症候群

 

Key word

脳性麻痺 少量抗精神病薬 悪性症候群 スルピリド リボトリール

 

30歳代男性

低酸素脳症から脳性小児麻痺となり車椅子生活を送っている。普通高校卒業後は就業せず、両親と同居している。一ケ月前祖母が亡くなりショックを受けた。2週間前の悪天候(大雨・雷)以来「水が溢れて家が傾く」「柱がゆがんでいる」など訴える。不眠・幻聴もある様子が伺えた。今までの日常生活が営めなくなり、家族同伴で1週間前当院初診。緊張感が強く、「怖い」と訴える。心因反応と診断し外来でリスペリドン液0.5ml/日を処方した。服薬4日後発熱、意識レベル低下がみられ、食事も出来ず寝たきり状態となった。当直医により脱水による発熱と診断。リスペリドン液中止が指示され、点滴と解熱剤処方され経過観察中であったが、状態改善なく翌々日当院入院に至る。

診断・治療経過

入院時(第1病日)

開眼しており、問いかけにわずかに発語があるものの、内容は聞き取れない。発汗、筋剛直あり。脈拍107 /分。体温38.5度C。白血球数9600/μl、CPK499IU/lで悪性症候群(⇒参照10)と診断。補液、ダントリウム40mg /日(6日間投与)にて悪性症候群の治療を開始した。

第4病日

解熱し、筋剛直は消失したが、「包丁が見える」「電話線とコードが挟まっている」と訴え幻覚妄想状態が再燃した。同日より、精神症状と悪性症候群両者の治療効果を期待してリボトリール0.5mg /日処方開始。さらに精神症状に対してスルピリド100mg筋注を隔日で2回行う。

第6病日:39.2度Cの発熱があり、悪性症候群の再発が懸念されたが、白血球数増多(17800/μl)があり、CTにて肺炎が確認された為、抗生剤投与開始した。

第7病日:スルピリド筋注にて精神症状の改善効果が認められた。スルピリドを注射から内服に切り替え、スルピリド100mg /日 リボトリール0.5mg/日とした。

第10病日:なお不安感が強い為、リボトリールを1mg/日に増量した。

第15病日:発熱なく、食事もしっかり摂れるようになり通常の会話も可能となったが、流涎(よだれ)がみられる為スルピリドを50mg/日に減量した。

第17病日:多少流涎が認められ、ご本人からも薬が強くて眠いと訴えがあった為、スルピリドは中止し、リボトリール単剤(1mg/日)とした。

第20病日:多少眠いと言われるため、リボトリール0.5mg/日に減量。

以後順調に回復し、第28病日に退院に至る。

その後外来でリボトリールは6週間投与、打ち切った。精神症状の再燃はない。

 診療のポイント

小児麻痺の患者が、祖母の死や悪天候などのストレスを誘因として反応性に幻覚妄想状態を発症した。抗精神病薬に対する脆弱性(副作用が通常の患者より極めてが出やすい)が予想された為、0.5mlのリスペリドン液を処方した。服薬4日目から原因不明の発熱、意識障害を認めたが、悪性症候群の前駆症状ではなく通常の過量投与(相対的に)による副作用と考えられリスペリドンは中止された。しかしリスペリドン中止にも拘わらず、状態は改善せず治療開始1週間後に悪性症候群を発症し入院加療に至った。悪性症候群消退後は幻覚妄想状態が再燃してその治療に苦慮した。スルピリド、リボトリールはこのような脆弱性を有する患者の精神症状のコントロールに有用であったと考えられる。