Key word 疲弊状態 過覚醒 過眠うつ 身体症状 パキシル
40歳代男性
教員。新年度転勤になり前任地以上に多忙となる。半年後、朝目覚めたものの体が石のように重く全く動かず、絞り出す気力もない状態で出勤不能となった。翌日さらに症状は強くなり、妻同伴で当院初診。初診時、活気のない表情で、抑うつ気分、早朝覚醒があった。身体的には、数ヶ月前から頭痛、動悸が顕著であった。「家庭などに特に問題はなく、ストレスは職場だけ」と言われる。
診断・治療
うつ病と診断し、10日間の休養を要すると診断書を書き、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を処方した。
処方
セレナール(10)2T 1日2回 朝・夕(食後)
スルピリド(100)1T
パキシル(20) 1T
レンドルミン(0.25)1T 1日1回 就寝前
当面毎週受診して頂く事にした。
治療経過
1週後
休んでいるので体は楽だが、抑うつ気分は不変。仕事の事が気になる。夜間7時間は眠れるようになった。朝起きてまた眠っていると。頭痛はちょっと楽になった。動悸は減ったがまだある。
業務に耐えられる程気力・体力が回復していないため、引き続き2ヶ月間の休業加療を要するとの診断書を書いた。
2週後
石のように重い感じは幾分楽になったが、何もせず家で寝ていることが多い。頭痛や動悸はなくなった。
医師:こんなになるまで疲れていたと思われますか?> ご本人:そうですね・・・
自身のおかれていた状態を冷静に振り返ることができる余裕が出てきた。
3週後
家の掃除など出来るようになった。食欲も出て来た。今は病前の50%位の状態と自己判定。
同日抗うつ剤パキシルを増量し、30mgとした。
4週後
軽い体操などしている。買い物にも行っている。職場に復帰出来るか否かという不安がある。
医師:本も読めますか?>ご本人:読めるようになりました。
5週後
あまり変わりない。気分は悪くはないが、体が動かない。意欲が出ない。よく眠ってしまう。夜7時間、昼2~3時間眠っている。
睡眠薬は不要と言われるため、レンドルミンは除去し、パキシルを40mgに増量する。
6週後
まずまずの調子。朝は6時半に起きて、朝食を食べてまた眠っている。今は70%位の状態。意欲が湧かない。
8週後
学校の様子を見に行こうと思ったが結局行けなかった。仕事の事など考えると気分が滅入る。
薬物療法のみでは限界があると考え、SST(⇒参照7)を勧め、翌日からSSTに参加することになる。
職場復帰が10日後に迫っていたが、病状の回復は充分でなく、再度休業延長の診断書を提出とした。
10週後
買い物に行ったり、子供とバトミントンなどした。しかしすぐ疲れる。
医師:勤務できそうですか?>ご本人:もうちょっとです。
12週後
学校に行ってみたら、書類が溜まっているのを見て愕然とした。それ以来吐き気が続いている。頭がクラクラする。
将来の方向を家族、職場と相談して復職に関してはっきり決められるようにアドバイスした。
14週後
上司に復職について相談し、新年度から復職プログラムに参加し、6月からの職場復帰を考えている。
これ以後2週間毎の通院とした。
18週後
柔道療法を勧め(⇒参照8)、以後毎週1回柔道療法に参加される。SSTも休まれる事なく継続参加しておられる。
24週後
職場の復職プログラム開始。定期的受診と週1回の柔道療法継続。
初診から8ケ月後
2ヶ月間の復職プログラムを終え、正式に復職。
1年5ヶ月後
ずっと順調で薬は3日に1回位飲んでいる。
最終処方
セレナール(10)2T 1日2回 朝・夕(食後)
パキシル(20) 1T 1日1回 就寝前
治療終結とし、残っている薬はそのまま保管し、今後不調となれば直ちに服薬開始し受診されるようにアドバイスした。
復職後は1日も欠勤する事なく、これ以後2年半再発はない。
診療のポイント
受診の数ヶ月前から頭痛、動悸など身体症状を主症状に発症したうつ病である。思考運動制止が出現して休まざるを得なかった翌日に受診し、速やかに治療が開始されため短期間で復職が可能と予想した。しかし、学校の労働過重への心理的抵抗は極めて強く、約半年間の休業を余儀なくされた。薬物療法だけでなく、リハビリプログラム(SSTや柔道療法)を取り入れることで復職への決意が得られたと思われる。この症例は超早期に治療導入され、薬物離脱後のフォローアップも2年半行えたので、過労うつの典型例として提示した。頭痛、動悸などの身体症状は抗不安薬のセレナール、過覚醒状態(早朝覚醒)はスルピリドやレンドルミンで治療した。過覚醒消失後は過眠状態、意欲低下状態に陥った(⇒参照12)。
それにしても教育現場の労働過重と心理的負担は過酷であり、今やうつ病は教員の職業病とさえ言える状況にある。