外来症例18 「耳鳴り・眩暈・血圧変動」が主症状の老年期ストレス性過覚醒状態

Key word 不快ライフイベント 脳機能低下 過覚醒状態 クエチアピン

70歳代 女性
10日前から頭位変換時に数分間程度持続する眩暈が出現した。数日前突然動悸が起こり内科受診したところ最高血圧160mgHgで高血圧症による症状と診断された。降圧薬と鎮暈薬が処方されたが、眩暈は改善せず当院受診に至る。

初診時
半年前地域でトラブルがあり心痛し、それを機に耳鳴りが出現した。夜は4時間眠ると目が覚める。耳鳴りが気になり寝付けず深夜2時以降はテレビなど見て過ごしていた。以前の睡眠は良好であった。眩暈は10日前、終日流れた震災報道をテレビで見たのをきっかけに発症した。

CTでは頭頂葉萎縮が認められたが、しっかりした応対をされ、認知症症状は認めない。血圧:114/72mmHg。
歩行はスムースで、フラツキは認めない。

不快なライフイベントを契機に発症した一連の耳鳴り、眩暈、血圧変動、早朝覚醒は、加齢による脳機能の低下とストレスにより惹起された過覚醒状態による症状と診断し、以下処方した。
処方
クエチアピン(25mg)0.25錠
リボトリール(0.5mg) 1錠  1日1回 夕食後

服用中の降圧剤は一端中止し経過観察とした。その旨内科主治医に情報提供をした。

治療経過
当夜
20時服薬し、間もなく入眠。22時に一時覚醒したがその後翌朝6時まで熟眠した。
夜中の体位変換時にいつもあった眩暈はない。覚醒して起き上がり再び横になったらクラッと来たがこれまでとは異なり眩暈はすぐ治まった。

2日後
20時30分に服薬し21時入眠。4時30分まで熟眠。耳鳴り、夜間の眩暈は完全に消失した。

14日後
血圧100/70mmHg。眩暈と耳鳴りは全く消失し睡眠も良好。しかし午前中頭重感あり、体が重くスムースな動作がし難かった。家族旅行があり、朝起きられないと困るため、その間クエチアピンは3日間服用中止した。リボトリールのみ服用していたが、午前中は頭がボーとすると話される。
リボトリールのhang-over (持ち越し効果)と考え、以下の処方に変更した。
処方
スルピリド(50mg )1錠 1日1回 夕食後

以後一連の症状の再燃はなく3ヶ月が経過している。

追補症例 80歳代 男性
【初診時】
20年前位から、雨が降っているような、ボイラーが鳴っているような音が終日聞こえ夜眠れない。難聴もあり、人の話が聞き取れない。耳鳴りは草刈機より大きい音で、寝ていてもその音の為に目が覚めると話される。CT:前頭葉・海馬萎縮あり。

本症例と同様な病態と考え以下処方した。
処方 クエチアピン(25mg)0.25錠 1日1回 夕食後

【2週間後】
医師:耳鳴りはどうですか?> ご本人:先生の声が分かります。
音が小さくなりましたか?> するのはするが、ワーとする位で大分小さくなりました。
眠りはどうですか?>よく眠れます。

表情和らぎ、初診時は会話困難であったが、ほぼ普通に応答可能となられた。

診療のポイント
眩暈・耳鳴りの病因は末梢性(内耳性及びその他)と中枢性(脳)に大きく分類される。
これらは原因不明のものが多く、一般的には治療は極めて困難である。本症例の場合、不快なライフイベントを契機に耳鳴り、眩暈、血圧変動、不眠が一連の症状として発症し、長期間持続していた。CT上脳萎縮があり、加齢による脳機能低下状態下で不快なライフイベントがストレスとなり、過覚醒状態が惹起され一連の症状が発現したものと診断した。
追補症例にも示したが、極めて少量のクエチアピンが耳鳴りを含めた一連の症状に著効した。本症状は認知症のBPSD(周辺症状)や老年期のせん妄と類似の病態により発症した、ごく軽微な症状として捉え得ると考えた。このような症状の治療に関しては成書にも記載はないが、抗精神病薬、特に鎮静作用の強いクエチアピンの極少量で過覚醒状態を是正する事がポイントと言えよう。

外来症例18 「耳鳴り・眩暈・血圧変動」が主症状の老年期ストレス性過覚醒状態 への8件のフィードバック

  1. D のコメント:

    ご教授お願いします。

    現在、30過ぎの男で働いている者です。
    いくつか症例を拝見しましたが、原因や類例がわからなかったため、ここに書きます。
    診断名として、統合失調症と診断されている者です。発症してからは10年以上経過していると思われます。症状としては、休みの日に家にいる分には何も起きないのですが、対人業務や締め切りがある仕事があるとストレスがかかって昼過ぎ以降に体調不良になります。記憶している限りでは昔はあまりなっていなかったと思うのですが、ここ数ヶ月で、頻繁に起こるようになりました。体調不良という症状は、頭が混乱してまともに思考を整理できなくなります。他の症状として、目が上転したり口渇や、感覚過敏になります。この状態になると、まともに会話もできなくなり、仕事をこなせなくなり大変困っています。職場の先輩や上司が気を遣ってくれて、今は重い仕事や電話番などから外してもらっています。
    話は変わり、今までの経緯について、大学や仕事の関係上、色々な地域に住んでいた為、複数のクリニックにお世話になった経緯があります。その為、先生が変わったときに何種類かの薬を試したことがあります。大学生のときに講義を受けていることが負担になっていたので、デパスを頓服で2年ほど服用し、トリプタノールやリスペリドンを短期間処方されていました。薬のせいで過鎮静のような症状になり、家族の勧めもあって、クリニックに通うのをやめていた時期(大学卒業〜5年前ぐらい)がありました。
    5年ほどぐらい前に自殺未遂をしたことがあり、入院したのち、エビリファイの筋注とアーテンと眠剤を処方され、安定していました。
    最近になって、体調不良が頻発するようになり、過覚醒を疑い、筋注などに加えて、リスペリドン3mgを10日間ほど処方されて試してみました。結果はより体調不良が近く発生するようになり飲むのをやめました。担当医曰く、投薬期間2週間未満で判断はできないらしいです。リスペリドン1mgに変更して再チャレンジしているところ(投薬12日目)です。
    ここで先生にお聞きしたいことは、これからの方向性についてです。2週間リスペリドン1mgを試して変わらなかったら、元の筋注と眠剤に戻してもらおうと思ってます。何か先生の方で似た症例があれば、対処法など教えていただきたいです。もし何かわかるのであれば、脳ドックなども考えています。

    対面でもなく唐突なご相談でお手数おかけして申し訳ありませんが、ご回答よろしくお願いします。

    • 西川正 のコメント:

      私は診療で経験した事は無いのですが、貴方の経験されている症状は「知覚変容発作」に近いものだと推測します。ネットで検索されれば、ヒットしますので御参照下さい。治療の方向性としては錐体外路症状を惹起しにくい抗精神病薬を使用し、リボトリールなどを併用すれば改善すると考えています。

  2. HMK のコメント:

    どうかアドバイスをいただけないでしょうか?

    私は40代男性です。

    7月中旬に起きた仕事上のトラブルで精神的に体調を崩してしまい、その後も引きずったまま時が過ぎて、とうとう9月2日午前3時頃に元々あった気にならない程度の左の耳鳴りが大きくなり(キーンの中にギーンが追加されてさらにウェーブしてる感じです)早朝覚醒(3時間前後)するようになりました。以前は6時間ほど寝ていました。さらに右耳が若干詰まった感じになって音程もスロー気味になってしまい、3日に耳鼻科にかかりプレドニン、ストミンA、アデホス、メチコバールを処方されました。しかし5日にさらなるトラブルがあり、それが引き金になったのか突然動悸が起こり血圧が150を超えました。5月に測った際は120でした。

    耳鼻科での治療は現在まで効果がなく、症状は現在も進行中です。もうしばらくは効果を見守りたいですが正直望み薄だと思っています。それに何でもくよくよ考える性格で7月から精神的に参っていたこと、そして耳のつまりや音楽の音程がワンテンポずれて聞こえる点を考えると精神的ストレスによるものの可能性が高いと思っています。この一連の症状が余計に不安感を煽ってさらなる悪化を招いている感じで本当に悪循環に陥ってます。

    そんな時にこの外来症例18の投稿をみつけました。

    この場合、70代女性の「不快なライフイベントを契機に発症した一連の耳鳴り、眩暈、血圧変動、早朝覚醒は、加齢による脳機能の低下とストレスにより惹起された過覚醒状態による症状」と似たような状況だと思いました。つまりこれはいわゆる自律神経失調症かそれに似た症状なんでしょうか?私とこの女性との違いは現段階では眩暈がないのと若いという点だと思いました。

    しかし、症状を引き起こした背景は似ていても、脳機能の低下や認知症の症状がない私の場合は先にコメントされた○部N之さんと同様に該当しませんでしょうか?個人的には70代女性と同じ薬の投与の仕方で「過覚醒状態」が改善し、耳鳴りが元の音量に戻れば良いのですが、望み薄でやるだけ無駄でしょうか?もし無駄だとして、ほかに何か手はないものでしょうか?

    どうかよろしくお願い致します。

    • 西川正 のコメント:

      ブログ症例を詳細に読まれた上でのQであり、嬉しく思います。年齢は異なるとはいえ「早朝覚醒(3時間前後)するようになりました。以前は6時間ほど寝ていました」は過覚醒状態であり、抗精神病薬でこの過覚醒状態を是正する事は症状改善に有効か?とも考えます。

  3. ○部 N之 のコメント:

    頸椎症性神経根症の手術を年明けに実施、痛みも消え良化したため、サインバルタカプセル×2CPS/夜、タリージェ30mg/day(朝・夜1回15mg)を段階的に減量してきた。2月から職場復帰しているがこの時点で服用はなし。最近めまいと耳鳴りがひどくなった。明るい場所で眼球を動かすと、頭の中で「ざっざっ」と音がしてめまいとなる。現在は自動車運転禁止のため、徒歩通勤している。投薬中止からのめまい、耳鳴りなのか?血圧からなのか?心配です。血圧 毎朝平均130/95 心拍数 72回 年齢52歳

    • 西川 正 のコメント:

      まだお若い方ですので、この症例には該当しないと思います。
      耳鼻科で精査して貰って下さい。

  4. T.U のコメント:

    87歳女性。
    元々血圧が高く、バルサルタン錠80mgを朝夕、アムロジピン錠5mgを朝服用していました。
    他には朝にバイアスピリン錠100mg・ネキシウムカプセル20mg、夕にエディロールカプセル0.75ミクログラムを服用しています。
    ところが、2箇月ほど前から、血圧が日中は低い時で110の67位まで下がらようになりました。それでいて、夜中眠っていると、ブルドーザーのような激しい音で目が覚め、血圧を測ると200以上にもなってしまい、眠れません。
    めまいはなく、吐き気もありません。
    ただ、耳鳴りというより、頭の中にプルドーザーが入ってしまったようで、眠れないのが辛くてなりません。どうすれば良くなりますか?

    • 西川 正 のコメント:

      T.Uさんへの返信。
      たしかに外来症例18に良く似た症状ですね。精神科や耳鼻科を受診されて下さい。但し、このような症状は特定な疾患(うつ病など)ではないので、著者行ったような薬物療法が受けられる保証はありません。その場合、このブログ(返信も含めて)を受診された精神科医に示されるのも一法かも知れません。

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